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淡い光が頭上に輝く。
決して眩しすぎないそれは僕の心にも光を灯す。
足をかけた階段は果てのない螺旋を描く。
辺り一面が深い闇に閉ざされてしまうことは頻繁にあったけれど、
それでも、その光だけを頼りに歩を進める。



「トム、週末に時間、取れないかな?」
週末を迎えるその日、駅へと向かう道すがらワトソン先輩はちらりと僕を見る。
「え、明日ですか?」
驚いて訊ねれば、
「いや、明日でも明後日でもいいんだけど……」
と、口許に手を当てた先輩の回答は要領を得ない。
実のところ今日切り上げた仕事がひどく中途半端だったとは僕も思っていた。
急ぎではないから、とそのまま週末を迎えたものの生真面目な先輩のことだ。
休日出勤でもして報告書や会議資料をまとめるつもりなのもしれない。
それならそれで僕が手伝えることもあるだろう。
それにしても、仕事の話ならそんなに申し訳なさそうな顔をする必要もないのに、と
僕はその気遣いに嬉しくなる。
「何かお手伝いできることがあれば、明日でも明後日でも喜んで」
「いや、手伝いというか……。実はとてもプライヴェートなことなんだけど」
ワトソン先輩はそう言い淀む。
「水くさいですよ、先輩」
なるほど、先輩は職場の後輩の僕をプライヴェートに巻き込むことで公私混同に
ならないかを気にしているのだ。
そうして僕はそこで遠慮をしてしまう先輩との距離を感じて、少しだけ寂しくなる。
職場の後輩でしかない僕に。
それでも、その壁を乗り越えるべくチャンスは到来した。
「僕でお役に立てるのなら、遠慮しないでください」
僕は軽く胸を張る。先輩は躊躇いがちに口唇を開く。
「その……海水浴にでも行かないかな、と思って」
その不似合いな言葉の響きに僕は唖然としてしまう。
先輩はどう見てもインドア派で本人もそれを認めていた。
「え? 泳ぎに……ですか?」
「そう。エミリアが――僕の妹みたいな子なんだけれど――、学校が休みの内に
海に行きたいっていうから。もちろん、連れて行くのは構わないんだよ。
だけど、せっかく休暇を楽しむなら人数も多い方が良いんじゃないかな、って。
それでトムがもし良ければ、って思ったんだけれど……」
ワトソン先輩は居心地悪そうに言葉を繋ぐ。
理由を聞いてしまえば意外な誘いにも納得がいく。先輩らしい休日の過ごし方だ。
「僕はかまいませんよ。荷物持ちでもなんでも! 近頃は海に行くことなんてな
いから珍しくて却って楽しみなくらいですよ」
「本当に、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
応えた僕にワトソン先輩は安堵に顔を綻ばせ、ありがとう、と笑った。


「アルお兄ちゃーん!」
波打ち際からまだ幼さの残る少女が手を振った。
長い金髪を両サイドで二つに結った彼女はワトソン先輩の実の妹だと紹介されても
僕は疑わなかっただろう。
手を振り返しながらワトソン先輩は眩しげに微笑う。
「エミリアは僕の……親友の妹で、だから僕にとってもとても大切な妹同然なんだ。
いつもは忙しくて構ってあげられないから、時間があるならってどうしても思って
しまって……」
ごめんね、と同じ笑顔のままで謝られ僕は首を振る。
「いいえ。僕はそんな風にエミリアちゃんのことを考えて行動するワトソン先輩
を尊敬しますよ」
先輩は碧い目を瞠り、そうしてはにかんだ。
「ありがとう。トムは、優しいね」
今度は僕が照れる番だった。先輩の笑顔と言葉に目が眩む。

「アルお兄ちゃん、シンプソンさん。は、や、くー」
遠く、少女の声が聞こえる。
ワトソン先輩の気配が動く。緩やかな風を伴い彼女の元へ行くために。
「トム、エミリアが呼んでる。ウルフも睨んでるから行こう」
光を取り戻した視界には白い掌。
差し伸べられた腕は、僕の目の前に立つワトソン先輩に繋がっている。
その手を頼りに僕は立ち上がる。
「ウルフ先輩って、せっかちですよね」
相変わらずな眩暈は幸福の証。
「昔からああなんだ」
さぁ行こうと先輩は走り出す。
夏の陽射しは波打つ水面に乱反射し、ワトソン先輩に、そしてエミリアちゃんと
ウルフ先輩に等しく降り注ぐ。
その光を目指し僕も駆け出した。
サンダルから入り込む砂が素足に少しだけ熱かった。



頭上の光は未だ遠い。
焦がれ続けても容赦ない闇に遠ざけられる。
それでも僕は果てのない螺旋階段を上ることをやめない。

光は幻影ではなく、真実そこに存在すると僕は知っている。

マウラ様に「残暑見舞」としていただきました♪

凄く柔らかく暖かくて、その後の「彼」の事を考えると
これ以上無いくらい眩しい一瞬の描写一つ一つにうっとりデス

隠れマウラ様FANとしては
「残暑見舞」を頂けただけでも幸せですのに
転載許可まで頂けて本当にどうもありがとうございましたv

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